Blog

ブログ

chevron_right

「キーマン」で一括りにしない:熱意・影響力・立場の3軸で分ける

  • エンタープライズセールス

「キーマン」で一括りにしない:熱意・影響力・立場の3軸で分ける

エンタープライズ営業において、キーマンの見極めは、商談の成否を大きく左右します。しかし多くの営業担当者が陥る罠は、「熱意(自社サービスへの評価・賛成度合い)」と「影響力(社内での役割・調整力)」を混同してしまうことです。自社サービスに好意的な人物がすべてChampionとは限りません。本記事では、この2つの軸を切り分けて見極める方法に加えて、その人がどの立場で検討に参加しているかという3つ目の軸まで含めて、キーマンの読み方を整理します。


なぜ「熱意」と「影響力」を区別する必要があるのか

エンタープライズ営業では、最終決裁者(Economic Buyer)に営業担当者が直接会える機会は限られています。エンタープライズの意思決定には、4部門・16人が関与しうる。ガートナーが2024年8〜9月にB2Bバイヤー632人へ実施し、2025年5月に発表した調査のアナリストコメントです(購買グループは5〜16人、最大4職能)。しかも、その全員が営業側から見えているわけではありません。弊社が接点データ26万件を調べたところ、メールのCcに登場した関係者のうち、CRMに登録されていた人は1.4%にとどまりました(パスライト調査/母集団:接点データ26万件)。

そのため、営業担当に代わって社内で提案を進めてくれる「Champion」の存在が鍵になります。ただし、ここで取り違えが起きます。

よくある失敗パターン

「御社のサービス、すごくいいですね!ぜひ導入したいです!」

このような言葉をかけてくれる担当者に出会うと、営業担当者は、ようやく話が通じる相手に出会えたと感じます。自分が扱う製品を評価してもらえれば、うれしくなるのは当然です。

しかし、いったん冷静になる必要があります。

その担当者に「では、執行役員の●●さんに承認を取りに行きましょう」と提案すると、とたんにお茶を濁される。「今はタイミングではない」「自分の業務が忙しい」「予算がない」など、言い訳が出てくる。これは、その人物が「Champion」ではなく「Coach」である典型的なサインです。


ChampionとCoachの決定的な違い

キーマン分析において最も重要なのは、ChampionとCoachを明確に区別することです。

Champion(導入推進者)の定義

Championとは、以下の条件を満たす人物です。

  • 自社サービスの導入に前向きである(熱意がある)

  • 最終決裁者に対して影響力がある

  • 社内で営業活動を代行してくれる

つまり、Championは「熱意」と「影響力」の両方を兼ね備えた人物です。

Coach(応援者)の定義

一方、Coachは以下のような人物です。

  • 自社サービスに対して好意的である(熱意がある)

  • しかし、決裁者に対する影響力がない

Coachは応援してくれるだけで、実際に案件を動かす力を持っていません。ここが決定的な違いです。

なぜ、商談期間内にCoachはChampionにならないのか

ここで押さえておきたいのは、商談が動いている期間のなかで、CoachがChampionに変わることはほとんどない、という点です。

社内での影響力は、積み上げに時間がかかるからです。誰の言うことなら通るか、という評価は遅れて形成されるもので、数ヶ月から1年程度では動きません。

エンタープライズ企業においては、Championが纏う影響力には役職やプロジェクトへのアサインが紐づいており、これらは数年単位での積み重ねの結果です。


2軸で分析する:キーマンマトリクス

キーマンを正確に見極めるために、「熱意(評価度合い)」と「影響力(調整力)」の2軸でマトリクスを作成します。

キーマン分類マトリクス

タイプ 影響力 熱意 対応方針
Champion 高 高 最優先でパートナーシップを構築
Coach 低 高 継続的に情報提供いただく
Blocker / Skeptic 高 低 推進派に回ることは少ないが、ストップできるので、Noを言わせないことが重要
Bystander 低 低 現時点では関与が薄い。将来のChampion候補として関係を継続

このマトリクスを用いることで、各キーマンに対する適切なアプローチ戦略を立てることができます。


熱意(評価度合い)の見極め方

まず、顧客担当者の「熱意」レベルを見極める方法を解説します。

熱意を測る3つの観点

1. 課題認識の深さ

表面的な興味なのか、本質的な課題認識に基づく関心なのかを確認します。

  • 「なぜこの課題を解決したいと思われたのですか?」

  • 「この課題が解決されないと、どのような影響がありますか?」

  • 「いつ頃からこの課題を認識されていましたか?」

本当に熱意のある担当者は、課題の背景や影響について具体的に語ることができます。

2. 行動の伴い方

言葉だけでなく、行動で熱意を示しているかを確認します。

  • 資料を社内の関係者に共有してくれているか

  • 次回のミーティングに他のキーパーソンを呼んでくれるか

  • 社内の検討状況を積極的に報告してくれるか

3. 個人的な動機(Personal Win)の有無

Championと関係を築くには、その人にとって、この案件が通ると何が良いのかを理解しておくことが要ります。

  • 「このプロジェクトが成功すると、●●さんにとってどのようなメリットがありますか?」

  • 「昇格したい」「失敗したくない」「KPIを達成したい」「自分の業務効率を上げたい」

個人的な動機が明確な担当者ほど、熱意は本物である可能性が高くなります。


影響力(調整力)の見極め方

次に、「影響力」を見極める方法を解説します。これはChampionとCoachを分ける決定的な要素です。

影響力を測る4つの観点

1. 決裁者への影響力

最も直接的な確認方法は、決裁者へのアクセスを依頼することです。

  • 「最終の意思決定を行う●●役員にお会いすることは可能でしょうか?」

  • 「役員への提案の場を設定いただけますか?」

この質問に対して、実際にアレンジしてくれるか、言い訳をして避けるかで、影響力の有無が明確になります。

2. 横展開の実績

社内での影響力は、横の連携にも現れます。

  • 「隣の●●部署にも紹介しておきましたよ」

  • 「関連部門の担当者にも声をかけておきました」

このような行動を自発的に取ってくれる人は、社内での発言力と行動力を持っています。

3. 役職・ポジションの確認

影響力は役職に紐づくことが多いため、組織図上の位置を確認します。

  • 現場のエースで業務を推進する課長・部長クラスか

  • 全社横串の施策を司る部門(IT戦略部、DX部、経営企画部など)に所属しているか

  • 過去にプロジェクトを成功させた実績があるか

4. 社内政治力の確認

直接聞きにくい場合は、間接的に探ります。

  • 「●●さんが推進されたプロジェクトで、過去に成功された事例はありますか?」

  • 「社内で新しい取り組みを進める際、どのような進め方をされていますか?」

  • 「●●さんの提案は、社内でどのように受け止められることが多いですか?」


影響力を見極める「テスト」の方法

影響力があるかどうかを判断するための実践的なテスト方法があります。

テスト1:上位者への引き合わせ依頼

「決裁者の方にご挨拶させていただきたいのですが、お取り次ぎいただけますか?」

  • Champion反応:「分かりました、来週の会議後に時間を取れるか確認します」

  • Coach反応:「うーん、ちょっと今は難しいですね...」「もう少し検討が進んでからの方がいいと思います」

テスト2:社内プレゼンの提案

「社内の関係者向けに説明会を開催させていただけませんか?」

  • Champion反応:「いいですね、関係者に声をかけて日程調整します」

  • Coach反応:「私から説明しておきますので大丈夫です」(実際には動かない)

テスト3:競合情報の共有

「競合他社も検討されていますか?どのような評価基準で比較されていますか?」

  • Champion反応:内部の評価基準や競合状況を具体的に教えてくれる

  • Coach反応:「そのあたりは私もよく分からないんです」


状況別の攻略アプローチ

マトリクスの各象限に対する具体的なアプローチ方法を解説します。

Champion(熱意高×影響力高)への対応

最優先で関係構築を進め、パートナーシップを確立します。

具体的アクション

  • 共同でゴールを設計:この商談がChampion本人の評価につながるように提案を設計する

  • 社内プレゼン資料の共同作成:一緒に作ることで、提案を自分ごととして持ってもらう

  • 定期的な情報共有:社内の反応や懸念点をフィードバックしてもらう

  • Personal Winの実現支援:Championの昇進・評価向上につながる成果を意識する

Coach(熱意高×影響力低)への対応

Coachには継続的に情報提供いただき、Championへの橋渡しをお願いします。

具体的アクション

  • Championの情報を得る:「社内でこのプロジェクトを強力に推進できる方はどなたですか?」

  • 社内の力学を教えてもらう:「意思決定に影響力のある方は誰ですか?」

  • 紹介を依頼:「●●部長をご紹介いただけませんか?」

  • 感謝を示しつつ期待値を調整:Coachに過度な期待をかけず、役割を明確にする

Blocker/Skeptic(熱意低×影響力高)への対応

影響力はあるが自社に好意的でない人は、推進側に回ることは多くありません。ただし止めることはできます。味方にすることより、Noを言わせないことを目標に置きます。

具体的アクション

  • 反対理由を理解:「どのような懸念をお持ちですか?」

  • 第三者評価で説得:導入事例、ROIデータ、業界評価などを提示

  • Championを通じてアプローチ:直接対決を避け、ChampionからBlockerへの働きかけを依頼

  • 反対を取り下げてもらう:完全な味方にならなくても、止めないところまで来れば十分

Bystander(熱意低×影響力低)への対応

現時点では関与が薄い相手です。優先度は下げつつ、将来のChampion候補として関係を継続します。

具体的アクション

  • 定期的な情報提供:ニュースレター、事例資料などを継続的に送付

  • イベントへの招待:セミナーやユーザー会への参加を促す

  • 急ぎすぎない:無理に関与を求めず、関心が高まるタイミングを待つ


もう1つの軸:その人は、どの立場で検討に参加しているか

ここまでの熱意と影響力は、その人が案件に対してどう構えているかを表す軸です。実務ではもう1つ、押さえておく軸があります。その人が何を背負って検討に参加しているか、という立場の軸です。

同じChampionでも、自分が毎日使う立場の人と、投資として見ている人では、渡すべき材料がまるで違います。熱意と影響力だけで人を並べると、ここを取り違えます。

3つの立場と、それぞれに効く材料

  • 使う人:導入後に毎日その製品を触る立場。見ているのは、自分の仕事が楽になるかどうかです。効くのは実際の画面、いまの手順との差、移行にかかる手間。ここを外すと、決裁が下りた後で現場が反対に回ります。

  • 投資対効果を見る人:予算を出す立場。見ているのは、投じた金額が何で返ってくるかです。効くのは数字、回収の見込み、社内の他の投資と並べたときの位置づけ。ここを外すと「良い製品だが、今ではない」で止まります。

  • リスクを見る人:情報システム、法務、セキュリティ、購買など。見ているのは、入れて問題が起きないかどうかです。効くのは権限設計、既存システムとの整合、運用体制、監査への答え方。ここを外すと、稟議の最終段階で止まります。

この3つは、営業の世界ではUser、Economic Buyer、Technical Buyerと呼ばれることもあります。呼び方は重要ではありません。重要なのは、同じ話をしても、立場が違えば刺さり方が違うという前提を持っておくことです。

2つの軸を掛け合わせる

熱意と影響力の軸で「この人はChampionだ」と分かったら、次に「その人はどの立場のChampionか」を見ます。

  • 使う人のChampionには、現場が納得する画面と手順を渡す。ただしこの人だけでは予算は動きません

  • 投資対効果を見る人のChampionには、数字と回収の道筋を渡す。ただしこの人は現場の使い勝手を保証してくれません

  • リスクを見る人は、Championになることが少ない代わりに、Blockerになると強い。早めに接触して、懸念を先に潰しておくほうが安全です

実務で外しやすいところ

1人が複数の立場を兼ねる。部長が使う人であり投資対効果を見る人でもある、という状況は珍しくありません。この場合、どちらの帽子をかぶって発言しているかで、同じ人の反応が変わります。

立場は途中で増える。検討の最終盤になってから、リスクを見る立場の人が現れることがあります。監査役が技術評価を実質的に握っていた案件、投資ファンドが送り込んだコンサルタントが選定の指揮を取った案件。どちらも、その時点まで地図に載っていなかった人です。

だから、いま会えている人だけで地図を描かない。これから出てくる立場の人を想定に入れておくことが、終盤で止まらないための備えになります。


Coach→Championへの育成:可能性と限界

Coachを育成してChampionにすることはできるのでしょうか?結論から言えば、限定的には可能だが、大きな制約があるというのが現実です。

育成可能な要素と困難な要素

要素 育成可能性 理由
製品への理解・好感 ◎ 高い 情報提供、デモ、成功事例共有で向上可能
課題認識の深化 ○ 中程度 インサイト提供、業界動向の共有で可能
社内政治力・影響力 × 困難 数年単位の積み重ねが必要、外部から介入困難
決裁者へのアクセス × 困難 組織構造・人間関係に依存

育成アプローチ(限定的に有効なケース)

すでに一定の社内ポジションがあるCoachに対しては、以下のアプローチで影響力を補強できる場合があります。

1. 成功体験の提供

小規模な先行導入で成功事例を作り、Coachが社内で成果を示す機会を提供します。特定部門での試験導入を成功させることで、Coachの社内での発言力が高まる可能性があります。

2. 武器の提供

Coachが社内で説得活動を行えるよう、以下の「武器」を提供します。

  • ROI試算資料

  • 他社導入事例

  • 経営層向け1枚サマリー

  • 想定される反論への回答集

3. 上位者との接点創出

自社の経営層とChampionとの面談を設定し、信頼性を高めます。スタートアップであれば、自社のCEOや役員を同席させることで、相手企業の上位者との関係構築を支援できます。

育成より発見を優先すべき理由

ただし、エンタープライズ企業においては、育成より発見を優先すべきです。

商談期間(数ヶ月〜1年)では、社内での影響力は育ちません。じっくり社内での影響力を育ててきたChampionを探し当てる方が、はるかに効率的です。

初回商談でChampionに会えることは多くありません。担当者を狙って取ったアポイントでも、その人が社内を動かせる立場とは限りません。問い合わせ経由であれば、なおさらです。

だからこそ、Coachを通じてChampionを発見するというアプローチが現実的です。


実践:キーマン分析シートの作成方法

各商談において、キーマンを体系的に分析するためのシートを作成しておくと、抜けが減ります。

キーマン分析シート項目

1. 基本情報

  • 氏名・役職・部署

  • 連絡先・接点頻度

  • 組織図上の位置

2. 熱意の評価(5段階)

  • 課題認識の深さ(1-5)

  • 自社サービスへの関心度(1-5)

  • Personal Winの明確さ(1-5)

  • 行動の伴い方(1-5)

3. 影響力の評価(5段階)

  • 決裁者へのアクセス(1-5)

  • 社内での発言力(1-5)

  • 横展開の実績(1-5)

  • プロジェクト推進の実績(1-5)

4. 分類

  • 立場:使う人/投資対効果を見る人/リスクを見る人(兼ねている場合は複数)

  • スタンス:Champion / Coach / Blocker / Bystander

5. アクションプラン

  • 次のアクション

  • 期待する役割

  • 提供すべき情報・支援


まとめ:キーマン分析の原則

キーマンを、熱意と影響力、そして立場の3つで見る。この切り分けが、次に誰へ何を渡すかを決めます。

覚えておくべき6つの原則

原則1:熱意と影響力は別物

「御社のサービスいいですね!」と言ってくれる人が、必ずしも案件を前に進められるわけではありません。熱意と影響力は独立した軸として評価する必要があります。

原則2:商談期間内に、CoachはChampionにならない

社内での影響力は、積み上げに年単位の時間がかかります。商談期間のなかで育てるのは現実的ではありません。

原則3:Coachには継続的に情報提供いただく

Coachは、Championを見つけるための道筋を教えてくれる存在です。Coachとの対話の中でChampionを見つけていくことが正しいアプローチです。

原則4:影響力は「テスト」で見極める

上位者への引き合わせ依頼、社内プレゼンの提案など、具体的な行動を依頼することで、影響力の有無を判定できます。

原則5:Championへの投資を最優先する

限られた営業リソースは、ChampionとChampion候補に集中すべきです。熱意だけを見て時間を配分すると、案件は進みません。

原則6:同じChampionでも、立場が違えば渡す材料が違う

使う立場の人に数字だけを出しても動きません。予算を持つ人に画面だけを見せても決まりません。誰かを分類したら、次にその人がどの立場で見ているかを確かめます。

最後に

エンタープライズ営業の多くの時間は、Championを探すことに使われます。見つけた人と一緒に、最終決裁者の納得をつくっていく。そのために、熱意と影響力、そして立場という軸で人を見る習慣を持っておくと、打つ手が変わります。

商談のなかで「この人はどの軸のどこにいるのか」を確かめる。それだけで、次の一手は変わります。

\ Let's shere ! /

一覧ページに戻る

一覧ページに戻る

keyboard_arrow_right