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意思決定構造・パワーチャート
ステークホルダーマップの進化系:非公式な力関係を炙り出す「パワーチャート(リレーションマップ)」の作り方と活用戦術
エンタープライズセールス
ステークホルダーマップの進化系:非公式な力関係を炙り出す「パワーチャート(リレーションマップ)」の作り方と活用戦術

パワーャートとは、顧客企業内の「非公式な影響力の構造」を可視化するツールです。従来のステークホルダーマップや組織図では捉えきれない実質的な力関係、人物同士のつながり、意思決定への影響度を明らかにすることで、エンタープライズ営業の成功確率を飛躍的に高めます。本記事では、パワーチャートの作り方から、キーパーソンの特定方法、具体的な活用戦術までを実践的に解説します。
- 従来のステークホルダーマップでは足りない理由
- ステークホルダーマップとパワーチャートの違い
- パワーチャートとは何か:定義と目的
- パワーチャートを作成する目的
- パワーチャート作成の前提:5種類のキーパーソンを理解する
- 1. Economic Buyer(EB:最終決裁者)
- 2. Champion(導入推進者)
- 3. Coach(応援者)
- 4. User(利用者)
- 5. Blocker(反対者)
- パワーチャートの作り方:6つのステップ
- ステップ1:組織構造の基本情報を収集する
- ステップ2:各人物の基本属性を記録する
- ステップ3:5種類のキーパーソン分類を行う
- ステップ4:自社提案への態度を評価する
- ステップ5:非公式な影響力と人間関係を追記する
- ステップ6:攻略ルートを設計する
- パワーチャートの視覚化:実践的な表現方法
- 推奨される表現要素
- 更新のタイミング
- 活用戦術①:Championの見極めと育成
- Champion見極めのための10の質問
- Championの個人的動機を理解する
- 活用戦術②:Blockerへの対処法
- Blockerの特定と分析
- Blockerへの対処戦術
- 活用戦術③:「点・線・面」で組織を攻略する
- 「点」の営業がもたらすリスク
- 「線」と「面」での攻略
- 活用戦術④:商談停滞時の突破口を見つける
- 停滞時のチェックポイント
- 突破のための具体的アクション
- パワーチャートとアカウントプランの連携
- チームでの活用:属人化を防ぐ仕組み
- 共有すべき情報
- 属人化を防ぐポイント
- まとめ:パワーチャートがもたらす成果
従来のステークホルダーマップでは足りない理由
大企業への営業活動において、多くの営業担当者が最初に取り組むのが「ステークホルダーマップ」の作成です。しかし、この従来型のマップだけでは、商談が思うように進まないケースが後を絶ちません。
その最大の理由は、公式の組織図やステークホルダーマップが「表向きの関係性」しか示さないためです。大企業の意思決定は、役職や肩書きだけでは動きません。役員会議の前に根回しする人物、発言力の強いベテラン社員、部門間の調整を握るキーマンなど、非公式な力関係が複雑に絡み合っています。
ステークホルダーマップとパワーチャートの違い
パワーチャートは「リレーションマップ」や「バイヤー相関図」とも呼ばれ、エンタープライズ営業において攻略ルートを設計するための「戦略地図」として機能します。
パワーチャートとは何か:定義と目的

パワーチャートとは、顧客企業内における「影響力の構造」を視覚化するツールです。単なる組織図とは異なり、以下の要素を記録・整理します。
実際の力関係:役職と影響力が一致しないケースの把握
人物同士のつながり:公式なレポートライン以外の人脈
発言力の強さ:会議での影響力、過去の実績による信頼度
自社提案への態度:賛成・中立・反対の分類
パワーチャートを作成する目的
パワーチャートを作成する最大の目的は、「意思決定プロセスを正確に理解し、誰にどのような働きかけを行うべきかを明らかにすること」にあります。
大企業における数千万円〜数億円規模のサービス導入は、一部の関係者だけの判断で決まることはありません。複数部門のステークホルダーが集まり、何階層にもわたる稟議を経て、ようやく意思決定に至ります。この複雑なプロセスを攻略するための「地図」がパワーチャートなのです。
パワーチャート作成の前提:5種類のキーパーソンを理解する
パワーチャートを作成する前に、エンタープライズ営業で最低限押さえるべき5種類のキーパーソンを理解しておく必要があります。
1. Economic Buyer(EB:最終決裁者)
予算を握り、購買の最終判断を下す人物です。ただし注意すべき点として、エンタープライズ営業においてEBの意向は思いのほか大きな影響を及ぼさないケースが多いです。なぜなら、EBは形式上最終決裁権を持っているものの、基本的な方針決定は部下に委ねているケースが多いためです。
2. Champion(導入推進者)
自社サービスに強い魅力を感じ、社内のキーパーソンを次々と紹介してくれる人物です。EBにも積極的に意見を伝えることができ、案件推進の原動力となります。
Championの特定条件として、以下の4つを確認することが重要です。
自社サービスの価値に共感してくれている
導入の必要性を感じてくれている
EBやその他関係者に対して、反論も交えながら自分の意見が言える
導入に必要なキーマンを紹介、または自ら攻略してくれる
3. Coach(応援者)
Championに見えるものの、実際には「応援」するだけで、EBの購買を促すための権力や影響力が欠けている人物です。「御社のサービスいいですね」と言ってくれるものの、話が進まない場合は、相手がCoachである可能性を疑うべきです。
4. User(利用者)
実際にサービスを利用する現場担当者です。導入後の活用イメージを持っているため、提案内容の具体化に協力してくれます。
5. Blocker(反対者)
導入に否定的な人物です。コスト懸念、競合製品の支持、変化への抵抗など、様々な理由で反対します。パワーチャートではこの人物の把握が特に重要で、事前に対策を講じる必要があります。
パワーチャートの作り方:6つのステップ
ステップ1:組織構造の基本情報を収集する
まず、公式の組織図を入手し、関係する部門と担当者を洗い出します。対象となる部門は商材によって異なりますが、一般的には以下が含まれます。
事業部門(実際の利用部門)
IT部門/情報システム部門
経営企画部門/DX推進部門
財務部門/経理部門
調達部門/購買部門
ステップ2:各人物の基本属性を記録する
把握した人物ごとに、以下の情報を記録します。
氏名・役職・所属部門
担当領域・管掌範囲
自社との接点履歴(面談回数、コミュニケーション内容)
ステップ3:5種類のキーパーソン分類を行う
前述の5分類(EB、Champion、Coach、User、Blocker)に当てはめます。ここで重要なのは、役職だけで判断しないことです。課長が担当窓口でも、実際に影響力を持っているのが部長や関連部署の別担当であるケースは珍しくありません。
ステップ4:自社提案への態度を評価する
各人物が自社提案に対してどのような態度を取っているかを、以下の3段階で評価します。
賛成:導入を支持している
中立:判断を保留している
反対:導入に反対している
ステップ5:非公式な影響力と人間関係を追記する
ここがパワーチャートの核心部分です。公式な組織図には現れない情報を追記します。
誰が誰に影響力を持っているか
部門間の協力関係・対立関係
過去のプロジェクト経験から生まれた信頼関係
同期入社、出身部門などの人脈
ステップ6:攻略ルートを設計する
収集した情報をもとに、最終的なゴール(受注)に至るまでのルートを設計します。
最初にアプローチすべき人物は誰か
Championを経由してEBにどう到達するか
Blockerをどう無力化または説得するか
未接触の重要人物は誰か
パワーチャートの視覚化:実践的な表現方法
パワーチャートを効果的に活用するには、視覚的にわかりやすく表現することが重要です。
推奨される表現要素
更新のタイミング
パワーチャートは「生きた文書」です。以下のタイミングで必ず更新しましょう。
新しい人物との接点が生まれたとき
人物の態度に変化が見られたとき
組織変更や人事異動があったとき
商談のフェーズが進んだとき
活用戦術①:Championの見極めと育成
パワーチャートを活用する上で最も重要なのが、Championの見極めと育成です。
Champion見極めのための10の質問
以下の質問に対する回答を確認することで、真のChampionかどうかを判断できます。
優先度の高い3つの質問(必須確認事項)
この人物は、自社サービスの導入によって自身のKPI達成やキャリアにプラスになると考えているか?
この人物は、EBに対して自分の意見を率直に伝えられる立場にあるか?
この人物は、他部門のキーパーソンを紹介してくれる意思と能力があるか?
補足的な7つの質問
導入に向けた社内の課題を率直に共有してくれるか
競合他社の状況について情報提供してくれるか
意思決定のプロセスやタイムラインを教えてくれるか
社内会議での議論内容をフィードバックしてくれるか
提案内容のブラッシュアップに協力してくれるか
反対派への対処について一緒に考えてくれるか
導入後の成功イメージを共有できているか
Championの個人的動機を理解する
Championが導入を推進する背景には、必ず個人的な動機があります。「昇格したい」「失敗したくない」「KPIを達成したい」「自部署の業務効率を上げたい」など、彼らの私欲を理解し、それを満たす提案ができれば、より強力なパートナーシップを築けます。
活用戦術②:Blockerへの対処法
商談が停滞する原因の多くは、パワーチャート上のBlockerにあります。
Blockerの特定と分析
否定的な反応が出たとき、その背景にある人物と理由を特定します。
コスト懸念型:財務部門や予算管理者の意見が反映されている
競合支持型:既存ベンダーとの関係を重視している
変化抵抗型:新しいシステム導入への不安がある
権限保持型:導入により自身の権限が縮小することを恐れている
Blockerへの対処戦術
間接アプローチ:別のChampionを通じて説得を試みる
証拠提示:過去の導入実績やROI実績で懸念を払拭する
巻き込み戦術:反対者をプロジェクトに参加させ、当事者意識を持たせる
迂回戦術:Blockerの影響力が及ばない別ルートからEBにアプローチする
活用戦術③:「点・線・面」で組織を攻略する
エンタープライズ営業において、顧客との関係を「点」ではなく「線」と「面」で捉えることが成功の鍵となります。
「点」の営業がもたらすリスク
目の前の商談という「点」しか見ていないため、提案が単発で終わり単価が上がらない
特定の担当者という「点」との関係しかないため、その人物の異動で関係がリセットされる
組織全体で信頼関係を築けていないため、競合にひっくり返されやすい
「線」と「面」での攻略
「線」として捉える:目の前の商談から解放され、長期的なエンゲージメントとして戦略を立てる
「面」で把握する:顧客の組織図全体(財務、現場、IT、事業責任者など)を把握し、多角的な接点を持つ
パワーチャートは、この「面」を可視化し、特定の個人に依存しない強靭な関係構築を可能にします。
活用戦術④:商談停滞時の突破口を見つける
商談が進まないとき、パワーチャートを見直すことで突破口が見えることがあります。
停滞時のチェックポイント
未接触の重要人物はいないか:影響力のある人物で、まだアプローチできていない人を探す
Blockerを見落としていないか:表面化していない反対者の存在を疑う
Championとの関係は十分か:形式的な関係になっていないか確認する
攻略ルートは適切か:別のルートから攻める可能性を検討する
突破のための具体的アクション
別のチームメンバーが新しい接点を作る
好意的なChampionを介して停滞の原因を探る
顧客の上位課題(経営課題)に立ち返った提案を行う
パワーチャートとアカウントプランの連携
パワーチャートは、アカウントプランの重要な構成要素です。アカウントプランとは「お客様と末長くハッピーになるための航海図」であり、以下の3要素で構成されます。
顧客理解:社内外の課題、組織、決裁権者、KPI/KGIの把握
課題定義と未来像:現状とあるべき姿のギャップ定義
提案戦略と実行ロードマップ:いつ、誰に、何を、どう提案するかの計画
パワーチャートは、1の「顧客理解」を深め、3の「提案戦略」を具体化するための土台となります。
チームでの活用:属人化を防ぐ仕組み
パワーチャートの価値を最大化するには、チーム全体での共有と活用が不可欠です。
共有すべき情報
人物ごとの最新の態度と関係性
直近の接点内容と次のアクション
攻略ルートの進捗状況
属人化を防ぐポイント
SFA(営業支援システム)への情報入力を徹底する
定期的なチームミーティングでパワーチャートを確認する
担当者交代時の引き継ぎプロセスを標準化する
まとめ:パワーチャートがもたらす成果
パワーチャートを適切に作成・活用することで、以下の成果が期待できます。
意思決定者の特定:表向きの役職だけでなく、実質的な決裁者を把握できる
組織内関係性の整理:複雑な人間関係や影響力を可視化できる
取るべき行動の明確化:次にアプローチすべき人物と方法がわかる
商談停滞の打開:突破口となる人物やルートを発見できる
チーム連携の強化:共通の「地図」で情報共有がスムーズになる
エンタープライズ営業は「大企業という山を登る」ような営業活動です。パワーチャートという地図なしに、どこへ向かうべきかを把握する術はありません。ぜひ、次の商談からパワーチャートの作成に取り組んでみてください。
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