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DMU分析とバイイングセンター攻略|組織全体を動かすBtoB営業の全体戦略

  • エンタープライズセールス

DMU分析とバイイングセンター攻略|組織全体を動かすBtoB営業の全体戦略

バイイングセンター攻略とは、顧客企業の購買意思決定に関わる複数の関与者(DMU=Decision Making Unit)を構造的に把握し、それぞれの役割・関心事・影響力に応じた戦略的アプローチを行うことです。窓口担当者だけに依存する「点」の営業から脱却し、組織全体を「面」で攻略することで、エンタープライズセールスにおける受注率の向上と商談の長期安定化を実現できます。


なぜバイイングセンター攻略が必要なのか

BtoB購買の現実

BtoBソリューションの購買には、平均6.8人もの関係者が関与しています。企業規模が大きくなるほど意思決定構造は複雑化し、窓口担当者が「導入したい」と言っても、それだけでは受注に至りません。

よくある失敗パターン

  • 窓口担当者と良好な関係を築いたが、稟議で否決された

  • 担当者の異動で、ゼロからの関係構築を強いられた

  • 競合が上層部に直接アプローチし、逆転された

  • 現場は賛成なのに、IT部門や購買部門で止まっている

これらはすべて、バイイングセンター全体を見ずに「点」でしかアプローチしていないことが原因です。

「点」「線」「面」で捉える組織攻略

視点 状態 リスク
目の前の担当者1人との関係 異動・退職で関係消滅、単価が上がらない
特定担当者との長期的関係 キーパーソン依存、組織変更に弱い
組織全体との多角的な接点 個人依存しない、全社導入・拡大の土台

バイイングセンター攻略の本質は、顧客組織を「面」で捉え、複数の関与者と戦略的に関係を構築することにあります。

「面」で攻略するメリット

  • 特定個人に依存しない強固な関係構築ができる

  • キーパーソン異動時のリスクをヘッジできる

  • 全社導入・アップセルの土台が形成される

  • 担当者が変わっても、組織として顧客理解が継承される


バイイングセンターの構造を理解する

DMUを構成する6つの役割

DMU(購買意思決定ユニット)は、以下6つの役割を持つメンバーで構成されます。1967年にRobinson、Farris、Windらによって開発された概念であり、フィリップ・コトラー氏の著書で広く知られるようになりました。

役割 説明 主な関心事
使用者(User) 実際に製品・サービスを利用する 使いやすさ、業務負荷、現場の声
起案者(Initiator) 課題を認識し導入を提案する 課題解決、部門成果、評価向上
影響者(Influencer) 専門知識で意思決定に助言する 技術的妥当性、リスク、業界標準
ゲートキーパー 情報の流れを制御する 社内調整、既存関係維持
購買者(Buyer) 発注・契約実務を担当する 価格、条件、納期、手続き
決定者(Decider) 最終的な購買判断を下す ROI、経営インパクト、リスク

実務上のポイント: BtoB営業では「使用者」と「購買者」が異なることが大半です。例えばITシステム導入の場合、情報システム部が窓口となり選定を行いますが、実際のユーザーは営業部門や経理部門となります。両者のニーズを把握しなければ、商談は前に進みません。

縦と横の構造

バイイングセンターは「縦」と「横」の二軸で広がりを持っています。

縦の構造(階層)

  • 案件規模・重要度が大きくなるほど、上位の意思決定者が関与します

  • 担当者 → 課長 → 部長 → 役員と、決裁権限に応じた承認が必要です

横の構造(部門)

  • 導入部門だけでなく、関連部門が意思決定に影響します

  • IT部門(システム適合性)、経理部門(予算)、法務部門(契約)などが該当します

攻略すべきは、この縦横に広がる組織全体です。


バイイングセンター攻略の5ステップ

Step 1:DMUマップで全体像を可視化する

最初に行うべきは、顧客組織の意思決定構造を「地図」として可視化することです。DMUマップは商談単位で関係者を整理するツールであり、後述するアカウントプラン(顧客との中長期的な関係構築を設計する上位概念)の基礎となります。

DMUマップに記載する項目

  • 氏名・役職・所属部門

  • 6つの役割のどれに該当するか

  • 関心事・重視するポイント

  • 影響力の大きさ(大/中/小)

  • 自社への態度(推進派/中立/反対派/不明)

  • メンバー間の関係性・力学

作成のコツ

  • 最初から完璧を目指さず、仮説ベースでスタートしましょう

  • 商談を重ねながら情報を追加・修正していきます

  • 人事異動を想定し、定期的にアップデートすることが重要です

Step 2:Championを特定し育成する

バイイングセンター攻略の鍵を握るのが「Champion(チャンピオン)」です。

Championの定義

  • 社内で信頼と影響力を持っている

  • 自らの成果・キャリアと導入成功を結びつけている

  • 意思決定プロセスを熟知し、社内を動かせる

ChampionとCoachの違い

「御社のサービスいいですね」と好意的に話してくれるものの、商談が一向に進まない場合、相手はCoach(応援者)である可能性が高いです。

比較項目 Champion Coach
影響力 決裁者(EB)を動かせる 応援するだけ
行動 社内調整を主導する 情報提供のみ
動機 自身のKPI・昇進に紐づく 好意・興味レベル
商談への効果 案件を前進させる 停滞しがち

Championの「Personal Win」を理解する

Championが社内で動く動機は、ビジネス課題の解決だけではありません。「昇格したい」「失敗したくない」「KPIを達成したい」「自部署の業務効率を上げたい」など、個人的なメリットと導入成功が紐づいています。この私欲を理解し、導入後に彼らがどう評価されるかを一緒に設計することで、真のパートナーシップが築けます。

Championを見つける質問例

  • 「この件、社内ではどなたが推進されていますか?」

  • 「導入が決まった場合、〇〇さんにとってどんなメリットがありますか?」

  • 「反対しそうな方はいらっしゃいますか?その方の懸念は何でしょうか?」

Step 3:各DMUの関心事に合わせたアプローチ

DMUは立場によって重視するポイントが異なります。「誰に」「何を」伝えるかを設計しましょう。

役割別アプローチ戦略

役割 刺さるメッセージ 提供すべきコンテンツ
使用者 「業務が楽になる」「使いやすい」 デモ、操作動画、ユーザー事例
起案者 「課題が解決できる」「成果が出る」 課題解決事例、ROI試算
影響者 「技術的に妥当」「リスクが低い」 技術資料、セキュリティ情報、第三者評価
ゲートキーパー 「スムーズに進む」「既存と共存」 導入計画、移行手順、サポート体制
購買者 「条件が良い」「手続きが簡単」 見積書、契約条件、納期
決定者 「経営にインパクト」「投資価値」 経営課題との接続、同業他社の成功事例

Step 4:反対派・中立派を味方につける

バイイングセンターには、必ず「反対派」「慎重派」が存在します。彼らを無視すると、最終局面でひっくり返されてしまいます。

反対派が生まれる典型的な理由

  • 既存システム・ベンダーとの関係を守りたい

  • 自部門の業務負荷が増えることへの懸念

  • 過去の失敗プロジェクトへのトラウマ

  • 導入による自分の立場・権限への影響

対処アプローチ

  • Championを通じて反対派の懸念を事前に把握します

  • 反対派の「裏のニーズ」を理解し、導入後のメリットを示します

  • 直接対話の機会を設け、懸念を解消する情報を提供します

  • 無理に説得せず、中立化を目指します(反対→中立で十分な場合も多いです)

Step 5:全社横串の部門から攻める

エンタープライズ案件で全社導入を狙う場合、個別部門を一つずつ攻略するのは非効率です。

狙うべきターゲット

  • IT戦略部 / DX推進部

  • 経営企画部

  • 全社改革プロジェクトチーム

これらの部門にChampionを見つけられると、部門横断の導入が一気に進む可能性があります。アウトバウンド型のインサイドセールス組織(BDRとも呼ばれます)を活用し、戦略的にこれらの部門へアプローチすることも有効です。


商談プロセスとバイイングセンター攻略の連動

バイイングセンター攻略は、商談の各フェーズと連動させて実行します。

商談プロセス全体像

フェーズ 目的 バイイングセンター攻略のポイント
Discovery 課題・ニーズの発見 DMUマップ作成開始、Champion候補の特定
Scoping 提案設計・価値定義 Championと共同で提案内容を設計、コスト妥当性の確立
EB Meeting 決裁者との合意形成 Championを通じて事前調整、経営視点で語る
Validation POC/POVで価値実証 使用者・影響者の評価を獲得、検証項目の事前合意
Proposal 最終提案・ビジネスケース 全DMUの懸念を解消した提案書
Negotiation 条件交渉・契約 購買部門への対応、Championとの連携維持

各フェーズでの具体的アクション

Discoveryフェーズ

Discoveryは売り込みではなく、調査です。窓口担当者から組織構造・意思決定プロセスをヒアリングし、「この案件の承認はどのように進みますか?」と率直に聞きましょう。この段階で重要なのは、担当者レベルの「ペイン」ではなく、経営レベルの「ビジネス課題」を特定することです。

ビジネス課題の具体例

  • 法規制への対応(個人情報保護法、インボイス制度など)

  • 競争優位性の確保(DX推進、業務プロセス改革)

  • セキュリティリスク(情報漏洩、サイバー攻撃対策)

  • 生産性・コスト・品質の課題

  • 評判リスク(顧客対応ミス、サービス品質問題)

Scopingフェーズ

Championと「担当者レベルのペイン」ではなく「経営課題」を起点に、As-Is(現状)とTo-Be(理想)のギャップを明確化します。コスト妥当性(Cost Justification)を確立し、導入しないことによる損失を定量化することが重要です。

EB Meetingフェーズ

決裁者(EB=Economic Buyer)が気にする4つの観点で準備しましょう。

  • いくら(Much-ness): コストと投資対効果

  • 早さ(Soon-ness): 導入期間と成果が出るまでの時間

  • 確からしさ(Sure-ness): 成果を出せる根拠と実績

  • 簡単さ(Easy-ness): 導入・運用のハードル

重要: EBの関心は最終的に「売上・利益・リスク」の3点に集約されます。Championが見ている景色と、EBが見ている景色は異なります。担当者レベルの業務効率化ではなく、経営インパクトの言葉で語ることが求められます。

Validationフェーズ

概念実証(POC)や価値実証(POV)を行う段階です。事前にChampionと検証項目・評価基準を合意しておくことが極めて重要です。この握りが甘いと、競合に有利な土俵で戦わされることになります。

  • 使用者・影響者を巻き込み、現場からの支持を獲得します

  • 競合との比較軸を自社有利に設定します

  • 検証結果は対面で報告し、疑念の余地を残さないようにします

Proposal・Negotiationフェーズ

  • ビジネスケースは、ベンダーからの提案ではなく「顧客企業の社内提案用資料」として使える形式で作成します

  • 全DMUの懸念が解消されていることを確認します

  • 購買部門からの値引き交渉に動じないようにしましょう(Championと価値で握っていれば問題ありません)


アカウントプランへの統合

DMU分析は単発の商談だけでなく、中長期的な「アカウントプラン」の中核として機能させます。アカウントプランは「お客様と末長くハッピーになるための航海図」であり、DMUマップはその航海図を構成する重要な要素です。

アカウントプランの3要素

要素 内容
顧客理解 経営課題、組織構造、DMUマップ、KPI/KGI、決裁権限
課題と未来像 現状(As-Is)と理想(To-Be)のギャップ定義
実行ロードマップ いつ・誰に・何を・どうアプローチするか

ポイント: アカウントプランの主語は「お客様」であるべきです。「自社がいくら売りたいか」ではなく、「お客様が何を達成したいか」から逆算して戦略を立てましょう。

アカウントプランがもたらす効果

営業側のメリット

  • チーム全員が顧客理解を共有できます

  • 担当者が変わっても引き継ぎがスムーズです

  • 単発商談ではなく、継続的な拡大戦略を描けます

顧客側のメリット

  • 毎回同じ説明をする必要がなくなります

  • 一貫した提案を受けられます

  • 長期パートナーとして信頼できます


バイイングセンター攻略チェックリスト

商談を進める中で、以下の項目を確認しながら攻略を進めましょう。

DMUマップ構築

  • [ ] 意思決定に関わる人物を全員リストアップしたか

  • [ ] 各人物の役割(6タイプ)を特定したか

  • [ ] 影響力と自社への態度を評価したか

  • [ ] 人物間の関係性を把握したか

Champion確保

  • [ ] 真のChampion(Coachではなく)を特定したか

  • [ ] Championの「私欲(Personal Win)」を理解したか

  • [ ] Championと提案内容を共同設計したか

反対派対策

  • [ ] 反対派・慎重派を特定したか

  • [ ] 反対の理由・懸念を把握したか

  • [ ] 懸念を解消する情報・対策を準備したか

意思決定プロセス把握

  • [ ] 承認フロー(誰が、どの順で承認するか)を確認したか

  • [ ] 決裁者の判断基準(4つの観点)を把握したか

  • [ ] 競合の存在と状況を確認したか


まとめ:組織を「面」で攻略する

バイイングセンター攻略の本質は、顧客組織を一人の担当者ではなく「意思決定に関わる人々の集合体」として捉え、全体最適のアプローチを設計することにあります。

攻略の5ステップ(まとめ)

  1. DMUマップで全体像を可視化 — まず地図を作ります

  2. Championを特定し育成 — 社内を動かす味方を作り、私欲を理解します

  3. 各DMUに合わせたアプローチ — 関心事別にメッセージを変えます

  4. 反対派・中立派を味方に — 障害を事前に排除します

  5. 全社横串の部門から攻める — 効率的に全社導入を狙います

明日から実践できるアクション

  • 今進行中の商談で、DMUマップを作成しましょう

  • 窓口担当者に「承認プロセス」と「関係者」を率直に聞いてみてください

  • Championになりうる人物を特定し、彼らの私欲(Personal Win)を明確にしましょう

  • 反対派がいるなら、その懸念を把握するアクションを取りましょう

  • アカウントプランを作成し、チーム全体で顧客理解を共有してください

バイイングセンター攻略は一朝一夕で完成するものではありません。しかし、この視点を持つことで、商談の勝率は確実に上がります。組織を「面」で捉え、戦略的に攻略していきましょう。

→エンタープライズ営業を推進させるPath Lightとは

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