エンタープライズセールス
複数拠点の購買プロセス統一:グループ会社を巻き込むアカウント戦略の進め方

- なぜグループ展開が重要なのか
- グループ展開がもたらす3つの価値
- グループ展開を阻む5つの壁
- 壁①:グループ各社の独立性
- 壁②:セキュリティ・コンプライアンス要件の違い
- 壁③:既存システムとの競合
- 壁④:「Not Invented Here」症候群
- 壁⑤:意思決定者の分散
- グループ展開のための「拡張アカウントプラン」
- 1. グループ構造の可視化
- 2. グループ内パワーストラクチャーの把握
- 3. 展開優先度のマッピング
- グループ展開を成功させる5つの戦術
- 戦術1:先行導入による実績構築
- 戦術2:子会社視点でのメリット訴求
- 戦術3:グループ標準化の「旗振り役」を特定する
- 戦術4:段階的な展開計画の策定
- 戦術5:成功事例の横展開と「型」の構築
- グループ内でのChampion戦略
- グループChampionの役割
- Champion見極めの4つの条件
- 購買プロセス統一を実現するアプローチ
- アプローチ1:グループ共通の「あるべき姿」を定義する
- アプローチ2:プロジェクト早期から子会社を巻き込む
- アプローチ3:継続的なサポート体制を構築する
- グループ展開を見据えたパワーチャートの拡張
- グループパワーチャートに追加すべき情報
- グループ展開における注意点
- 注意点1:「横展開」の罠を避ける
- 注意点2:グループ会社の「押し付け感」を排除する
- 注意点3:展開は「2つまで」の法則
- 営業担当者が果たすべき役割
- プロジェクトマネージャーとしての役割
- 具体的なアクション
- まとめ:グループ展開は「組織対組織」の戦い
- 成功のための5つの原則
大企業グループへのサービス展開は、エンタープライズ営業における最大のLTV最大化戦略です。しかし、親会社での導入成功が必ずしもグループ会社への横展開につながるわけではありません。各社の独立性、セキュリティ要件の違い、既存システムとの競合など、乗り越えるべき壁は多岐にわたります。本記事では、グループ会社を巻き込むアカウント戦略の設計方法から、購買プロセス統一を実現するための具体的なアプローチまでを解説します。
なぜグループ展開が重要なのか
エンタープライズ営業の最終目標は「LTV(顧客生涯価値)の最大化」です。そして、大企業グループへの展開は、その実現において最も効果的な戦略の一つです。
グループ展開がもたらす3つの価値
大手企業には多くの部署やグループ会社が存在するため、商品を横展開することで利益を最大化できます。受注を取ることがゴールではなく、いかに複数部署へ複数商品を展開していくかという深耕型の営業手法が重要になります。
グループ展開を阻む5つの壁
グループ会社への展開は、単純に「親会社で成功したから横展開する」というほど簡単ではありません。以下のような構造的な壁が存在します。
壁①:グループ各社の独立性
ホールディングス体制では、各子会社は独立した法人格を持ち、それぞれの経営方針で事業を進めています。持株会社からの直接的な指示が行き届かないことも多く、「親会社が決めたから」という理由だけでは動かないケースが大半です。
子会社の立場からすれば「納得」というプロセスが重要であり、グループ全体としてのメリットだけでなく、各子会社にとってのメリットの訴求が必要になります。
壁②:セキュリティ・コンプライアンス要件の違い
大型のホールディングス企業を担当する場合、年末調整のシステムを1つ入れるにしても、すべてのグループ会社のセキュリティ要件を満たせるかが問われます。業種や規制環境によって、グループ会社ごとに求められる要件が異なることは珍しくありません。
壁③:既存システムとの競合
一部のグループ会社ではすでに別のシステムが導入されているケースがあります。そのシステムからの置き換えには、他ベンダーとの連携開発が必要になったり、追加コストが発生したりと、単純な「追加導入」とは異なる複雑さが生じます。
壁④:「Not Invented Here」症候群
各部門・各グループ会社が独自のKPIや業務プロセスを持つため、他の成功事例に対して「うちのやり方とは違う」「あの会社だからできたことだ」と無意識に抵抗してしまう傾向があります。この心理的な壁が存在する限り、どれだけ優れた成功事例も共有・活用されません。
壁⑤:意思決定者の分散
グループ会社への展開では、親会社の担当者だけでなく、各子会社の経営層、情報システム部門、現場責任者など、多層にわたる意思決定者への働きかけが必要になります。平均6〜10名のステークホルダーが意思決定に関与するというデータもあります。
グループ展開のための「拡張アカウントプラン」
通常のアカウントプランに加え、グループ展開を視野に入れた場合は「拡張アカウントプラン」として、以下の要素を追加で設計する必要があります。
1. グループ構造の可視化
まず、ターゲットとなる企業グループの全体像を把握します。
整理すべき情報
グループ会社一覧:子会社、関連会社、海外拠点の把握
資本関係:持株比率、完全子会社か関連会社かの区分
事業内容:各社の主力事業、自社サービスとの親和性
規模:従業員数、売上規模、拠点数
IT環境:現在使用しているシステム、IT投資方針
2. グループ内パワーストラクチャーの把握
グループ全体での意思決定構造を理解します。
把握すべきポイント
グループIT戦略の策定主体:ホールディングス本体か、シェアードサービス会社か
予算配分の仕組み:一括調達か、各社独自調達か
標準化方針の有無:グループ統一システムの推進度合い
キーパーソンの所在:グループIT統括責任者、各社の決裁者
3. 展開優先度のマッピング
すべてのグループ会社を同時に攻略することは現実的ではありません。展開の優先順位を明確にします。
優先度評価の基準
グループ展開を成功させる5つの戦術
戦術1:先行導入による実績構築
いきなり全グループへの展開を目指すのではなく、まずは効果が出やすく協力的なグループ会社を「先行導入先」として選定します。
先行導入先の選定基準
親会社との業務内容の類似性が高い
経営層やIT責任者が協力的
規模が適度で、成功事例として訴求しやすい
現行システムの契約更新時期が近い
先行導入で十分な検証を行うことにより、次のステップ以降の手戻りを抑えることができます。2〜3年かけて中規模のグループ会社に使ってもらい、その良さを体感してもらうことで、口コミで大規模展開への道が開けることがあります。
戦術2:子会社視点でのメリット訴求
グループ共通のシステムを導入する際、どうしても親会社視点での価値訴求が色濃くなりがちです。しかし、子会社への展開には、子会社の立場での「納得」が不可欠です。
子会社へのメリット訴求ポイント
業務効率化:導入による作業時間短縮、人的ミス削減
コスト削減:グループ一括調達によるボリュームディスカウント
業務品質向上:データの誤入力防止、組織内コミュニケーション改善
スキル向上:最新システムの活用による担当者のスキルアップ
グループ内連携強化:同じシステムを使うことで、同じ画面・同じデータを見ながら会話できる
戦術3:グループ標準化の「旗振り役」を特定する
グループ展開を推進するには、社内に強力な推進役が必要です。各グループ会社の利害を超え、グループ全体最適の視点で動ける「旗振り役」を見つけ、協働関係を構築します。
旗振り役となりうる部門・役職
ホールディングス本体のIT戦略部門
グループシェアードサービス会社
経営企画部門(グループ戦略策定担当)
グループCIO/CDO
この旗振り役が、各グループ会社への展開時の技術支援、人材育成、効果のモニタリングまでを担うことで、現場に寄り添いながらもグループとしての統制(ガバナンス)を効かせることができます。
戦術4:段階的な展開計画の策定
グループ全体のシステム統合を成功させるには、「段階的導入」がポイントです。
推奨される展開ステップ
各フェーズの結果を定量・定性の両面から評価し、うまくいった点・いかなかった点を分析して、次のフェーズに反映させるPDCAサイクルを回すことが重要です。
戦術5:成功事例の横展開と「型」の構築
一度成功した展開パターンを「型」として整備し、再現性を高めます。
「型」に含めるべき要素
業務プロセスの標準モデル
導入時の設定ガイド・マニュアル
想定されるQAと回答集
導入効果の測定方法
関係者への説明資料テンプレート
この「型」があることで、他のグループ会社への展開時にゼロから考える必要がなくなり、横展開のハードルは大幅に下がります。
グループ内でのChampion戦略
グループ展開を成功させるには、親会社だけでなく各グループ会社にもChampion(導入推進者)を見つけ、育成することが重要です。
グループChampionの役割
Champion見極めの4つの条件
グループ会社でのChampion候補は、以下の4つの条件を満たしているかを確認します。
価値共感:自社サービスの価値を理解し、共感している
課題認識:現状の業務課題を認識し、解決への意欲がある
発言力:社内の意思決定者に対して意見を述べることができる
紹介意欲:他のキーパーソンを紹介してくれる姿勢がある
購買プロセス統一を実現するアプローチ
複数拠点・グループ会社での購買プロセス統一を実現するには、以下の3つのアプローチが有効です。
アプローチ1:グループ共通の「あるべき姿」を定義する
現状の各社の業務プロセスをそのままシステム化する「現行踏襲」ではなく、「あるべき姿」に対するGapを認識し、業務改革を並行して推進することが重要です。
「あるべき姿」定義のポイント
業界のベストプラクティスを参照する
グループ全体での最適化を優先する(部分最適の排除)
将来の拡張性を考慮した設計にする
各社の「共通」と「個別」を明確に区分する
アプローチ2:プロジェクト早期から子会社を巻き込む
子会社の実態は、親会社が認識している以上にバラバラであるケースが多いです。親会社にシステムを導入してから子会社とのコミュニケーションを始めるのではなく、プロジェクトの早期から子会社を巻き込み、グループ標準を共同で作り上げることが重要になります。
これにより子会社でも「自分事化」され、円滑な導入につながります。
アプローチ3:継続的なサポート体制を構築する
システム導入後の継続的なサポートが、グループ展開の成否を分けます。
導入後に必要なサポート
QA対応:システムの機能や業務プロセスに対する質問への回答
制度面のサポート:グループの会計方針や勘定科目の解釈など
ノウハウ共有の場:導入時のノウハウや活用方法をグループ会社間で共有できる場の設置
定期的なレビュー:導入効果の測定と改善提案
グループ展開を見据えたパワーチャートの拡張
通常のパワーチャートに加え、グループ展開を視野に入れた場合は「グループパワーチャート」として拡張します。
グループパワーチャートに追加すべき情報
1. グループ横断の関係性
親会社とグループ会社間の人的ネットワーク
グループ会社間での情報共有・協力関係
過去の人事異動によるつながり
2. グループ意思決定構造
グループ全体でのIT投資決定プロセス
各社の予算策定・承認フロー
グループ会議体(CIO会議など)の有無
3. 展開状況の可視化
各グループ会社での導入状況(導入済/商談中/未接触)
キーパーソンの態度(賛成/中立/反対)
次のアクション計画
グループ展開における注意点
注意点1:「横展開」の罠を避ける
単純に「親会社で成功したやり方をそのまま横展開する」のは危険です。ある部署でのDX成功が、特定の個人のスキルやその部署特有の非公式なルールといった「属人的な要素」に大きく依存しているケースは少なくありません。
SaaSを社内で広げるには、ツールの使い方・ユースケースを横展開するのではなく、「課題発掘→課題認識の共有→チームづくり→ビジョンと戦略づくり」という変革プロセスを繰り返すことが必要です。
注意点2:グループ会社の「押し付け感」を排除する
課題のない部署に解決策(ツール)を押し付けないことが重要です。「それ大変じゃない?」「困ってますよね」というアプローチで、まず課題認識を共有することから始めます。
グループ標準だからといって強引にプロジェクトを進めても、一時的には成果を得られたとしても、継続的な成果は期待できません。
注意点3:展開は「2つまで」の法則
横展開は2つまでがいいところ、という経験則があります。それ以上の展開では、システムが「亜種」となって肥大化し、データ環境やプロセス群の共通/個別の区別が曖昧になり、保守が困難を極めることがあります。
展開を重ねる前に、「共通のものは一元化し共有する」「極力重複を排除する」というアーキテクチャ設計の原則に立ち返ることが重要です。
営業担当者が果たすべき役割
グループ展開において、営業担当者(アカウントマネージャー)は単なる「売り手」ではなく、プロジェクト全体をマネジメントする役割を担います。
プロジェクトマネージャーとしての役割
規模が大きいうえに複数の会社にまたがるため、乗り越えなければならない壁がいくつもあります。プロジェクトの全体像をとらえ、ときには他のベンダーも巻き込んでマネジメントしていくことが求められます。
具体的なアクション
グループ全体の戦略設計:どの順番で、どのようにグループ会社を攻略するかの計画立案
社内リソースの調整:プリセールス、SE、カスタマーサクセスなど社内チームの巻き込み
ステークホルダー間の調整:親会社、グループ会社、場合によっては他ベンダーとの調整
進捗管理とリスク対応:展開状況のモニタリング、問題発生時の対応
経営層への報告:自社・顧客双方の経営層への定期報告
まとめ:グループ展開は「組織対組織」の戦い
グループ会社を巻き込むアカウント戦略の成功には、以下の要素が不可欠です。
成功のための5つの原則
子会社視点を忘れない:グループ全体のメリットだけでなく、各子会社にとってのメリットを明確に訴求する
早期巻き込み:プロジェクト初期から子会社を参加させ、「自分事化」を促進する
段階的展開:先行導入→検証→本格展開という段階を踏み、手戻りを防ぐ
型の構築:成功パターンを「型」として整備し、再現性を高める
継続的サポート:導入後も親会社からの継続的なアドバイス・サポートを提供する
グループ展開は、単なる「営業」ではなく、顧客企業のビジネス変革を支援する「パートナー」としての関わりが求められます。グループ全体としての成果を最大化するために、親会社を含むグループ各社がシステム導入のメリットをそれぞれに享受することと、その総和を単なる足し算以上にするためのグループ全体のマネジメント、この2つの観点での取り組みが必要です。
複数拠点・グループ会社への展開は、エンタープライズ営業における最も難易度の高い取り組みの一つですが、成功すれば長期的かつ安定した収益基盤を構築できます。アカウントプランを武器に、組織対組織の戦いを制していきましょう。
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